なぜ国立映画アーカイブを守るべきなのか?

アーカイブ事業は金がかかる。
伊藤弘了 2026.09.24
読者限定

あらゆる「べき」論は、肯定形であれ否定形であれ、極限すれば、すべてたんなる言葉でしかない。

法律は守らなければならない。しかし、現実には守られないことがわかっているからこそ、警察・検察・裁判所のような暴力装置が社会に組み込まれている。

人類はすでに2500年前には「汝姦淫するなかれ」という戒律を定めているが、一向に守られる気配はない(ちなみに“not”が脱落して「姦淫せよ」となってしまった「姦淫聖書」なるものが存在するが、精神分析的にはどちらでも同じことである。肯定と否定は、それが強ければ強いほど同義性を増す)。

国立映画アーカイブ、クラウドファンディング開始の衝撃

2026年6月25日、国立映画アーカイブがクラウドファンディング開始を告知し、映画関係者の間に衝撃が走った。国立映画アーカイブという、ある種の人々にとっての“聖地”の存続が危ぶまれる事態に陥っているかのように映ったからである。

当初の目標額は1億円。なお8月15日には早々にこの目標額に到達した。次なる目標(NEXT GOAL)として1億5000万円を掲げていた本クラウドファンディングは、9月23日23時に終了し、最終的にその目標も達成した。

めでたしめでたし……ということでよいのだろうか?

クラファン開始当日に開催された記者会見でも説明されているように、背景には、大きく減額された運営費交付金の問題がある。

国立映画アーカイブ学芸課長・冨田美香(冨田先生はもともと立命館大学で教授を務めていた方である)の説明によれば、令和6年度の国立映画アーカイブの運営費交付金配分額は6億8291万7000円で、自己収入目標額の5442万1000円と合わせて約7億3700万円だった。それが、令和8年度は交付金配分額が3億5856万円まで減少し、自己収入目標額が2億4873万円に設定されたという。

数字を並べられてもピンとこないかもしれないが、2024年度の約5,442万円から2026年度には約2億4,873万円へと、自己収入の目標額はわずか2年で約4.6倍に引き上げられたわけである。とうてい現実的とは思えない数字である。

そして同時に、運営費交付金の配分額は、令和6年度の約6億8,292万円から、令和8年度には約3億5,856万円まで落ち込んだ。2年間で約47.5%、ほぼ半減したことになる。

光熱費や設備維持費などの固定費だけで約4億円以上に達しており、3億5856万円の運営費交付金だけでは、その固定費を賄うことすらできない。

王の末路

「国立映画アーカイブは守らなければならない」。

映画研究者=批評家として活動している僕としては、もちろん強くそう思っている。じっさい、今回のクラウドファンディングにも一支援者として寄付をしている。しかし、僕がそう思い、たかだか10万円やそこらを出したところで、どうにかなるものではない。

名前に「国立」とついていることから明らかなように、また映画アーカイブ自身も「映画のためのたった一つの国立機関」を謳っているように、その運営主体は「国」(厳密に言えば文化庁が所管している独立行政法人国立美術館)であり、活動資金の主たる原資は税金である(自己収入があるとはいえ、予算全体から見れば少額に留まっていた)。日本は建前上、民主主義の国ということになっている。主権者である国民が施設や活動の意義を認め、存続を望まないのであれば、維持することはかなわない。

人類はこれまでに実に多くの文化を生み出し、そして滅ぼしてきた。20世紀に大衆娯楽の王として君臨した映画だが、玉座を明け渡して久しい。映画もまた、人類史において一時の栄華を極めた一文化として、それを懐かしむ少数の人々とともに、昔日の栄光に思いを馳せながら滅びゆく定めにあるのだろう。

数字の詐術

少々、話を急ぎすぎたかもしれない。

この記事は無料で続きを読めます

続きは、2712文字あります。

すでに登録された方はこちら

読者限定
定時通信 #10|10月10日(土)
読者限定
この映画を見よ:瀬々敬久『ラーゲリより愛を込めて』|観測再録 #5
読者限定
臨時通信|観測小休止&予告
サポートメンバー限定
補給物資|2026年9月
読者限定
定時通信 #9|9月27日(日)
読者限定
定時通信 #8|9月19日(土)
読者限定
さらば、ゴダールよ/こんにちは、ゴダール|観測再録 #4
読者限定
定時通信 #7|2026年9月12日(土)