定時通信 #10|10月10日(土)
10月は英語でOctoberだが、これはラテン語の月名をそのまま借用したものである。
「octo」自体はもともと「8」を意味する言葉で、英語のオクトパス(octopus、タコ=8本足)やオクターブ(octave=8度音程)などにその名残を見てとることができる。
(ちなみに英語のeightも、ラテン語やギリシア語の「8」と共通の祖先を持つと考えられているが、こちらは見た目も発音も変わりすぎていて、ほとんど意識されることはないだろう。)
本ニュースレター「第八芸術観測哨」のサブドメインを「octa-critique」に設定した所以である。
なぜ8を意味する言葉が10月の月名に残っているかと言えば、もともと10ヶ月分しかなかった月名に、あとから1月と2月を追加したからである。
というわけで、10月8日を「第八芸術観測哨の日」と勝手に定めることにする。8月8日ではさすがに安直すぎるので(第2記念日くらいにはしておいてもいいかもしれない)、これくらいの捻りを入れておいたほうがこのニュースレターらしくていいと思う。
■ 観測外報
というわけで、10月(もともとの意味は「8月」)8日の20時(午後8時)を狙って、YouTubeの個人チャンネルに初めて動画を投稿した。
YouTube様のアルゴリズムに気に入られたのか、投稿から24時間ほどで600回以上視聴されている。登録者数20名の無名チャンネルの初投稿動画としては、かなり控えめに言っても相当に健闘しているほうだろう(もちろん、YouTube全体から見れば「無」に等しい)。
本日10月10日20時には、これをもとにしたショート動画を投稿する予定である(そのまま切り出したわけではなく、ショート動画として成立するようにそこそこ手を加えている)。
映画研究者=批評家がアテンション・エコノミーに巻き込まれて一喜一憂するさまを、ぜひ(チャンネル登録・高評価したうえで)観測していただければ幸いである。
ニュースレターやYouTubeチャンネル(実は開設はこちらのほうが先)の名前に「研究室」や「観測所」をつけようと考えていた時期もあったが、どうにもしっくりこなくて、最終的に、あえて軍事色の強い「哨」を選んだ。
直接的な着想源は神島の「監的哨」だが、今回の動画制作を通して、自分でも気づいていなかった理由の一端が垣間見えた気がする。僕の出生地である愛知県豊橋市は、もともと「軍都」として栄えた街である(その点でも熊本に似ているところがある)。日露戦争中に大陸で編成された帝国陸軍第15師団が戦後に置かれ、軍の存在を前提とした街づくりが進められた。
僕が通っていた高校(愛知県立時習館高等学校)は、第15師団に所属する野砲兵第21聯隊の兵営があった土地に建てられている(敷地面積は全国の公立高校で第2位。1位は北海道の高校で敷地面積はうちの25倍もあるが、こちらはかなり特殊な事情を有する。つまり普通にめちゃくちゃ広い)。
1925年のいわゆる「宇垣軍縮」の際に豊橋の第15師団が廃止された後は、豊橋陸軍教導学校や豊橋陸軍予備士官学校として活用され、戦後に母校の前身となる豊橋中学校(旧制中学)の新校舎が建てられた(旧校舎は戦災で消失)。当時の門柱も残っている。
僕が高校3年のときに、映画『早咲きの花』(菅原浩志監督、2006年)のロケーション撮影が行われ、僕もエキストラとして参加したが、その話はまたの機会に譲る(朝倉未来が子役として出演している)。
■ 観測対象
映画人命日
・オーソン・ウェルズ(1915年5月6日 - 1985年10月10日)
10月10日はオーソン・ウェルズの命日である。もはやどこから説明すればいいかわからないほどの大監督、名優だが、とはいえ、いかにベタであってもまずは『市民ケーン』(1941年)を挙げないわけにはいかないだろう。世界映画史上最高の1本と考える人も少なくない(僕はそこまでは思わないが)。
個人的には『上海から来た女』(1947年)が印象に残っている。特に終盤の鏡の迷路のシーンは必見である。
映画配信情報(10月2日)
・『8番出口』(川村元気監督、2025年)
今回の定時通信の流れで、この映画の配信開始情報に触れないわけにはいかないだろう(僕は公開時に劇場で鑑賞した)。
しかし、なぜ「8」なのか。
『8番出口』がループの映画であることは誰の目にも明らかだが、「いかに〈器〉の映画であるか」を語るには、僕があまりに疲れすぎている。ただ、小津安二郎も、おそらくは同じ発想に基づいて総合芸術としての「映画」の可能性を信じていたであろうことは言っておきたい。
小津は、太平洋戦争中に陸軍報道部映画班員としてシンガポールに派遣されていた。滞在中には、現地で接収した大量の外国映画を見ている。その中には、当時の日本国内では公開されなかったハリウッド映画、たとえばウェルズの『市民ケーン』も含まれていた。
『市民ケーン』を見た小津は「チャップリンが62点ぐらいだとすると此奴は85点ぐらいなんだ」と評している。
■ 拾得物
5年ほど前にバズった『新・平家物語』(溝口健二監督、1955年)の冒頭を取り上げたX(当時はTwitter)の投稿が、なぜか発掘されて再びバズっていた。

超絶技巧の長回し(ロング・テイク)の技法が用いられていることで有名なシーンである。
「世界三大長回し」と言えば、フィルム・ノワールというジャンルの掉尾を飾るオーソン・ウェルズの『黒い罠』(1958年)とジョン・カーペンターの『ハロウィン』(1978年)のオープニング、ミケランジェロ・アントニオーニの『さすらいの二人』(1975年)のラストと相場が決まっているが、その次くらいに入れてもいいかもしれない。
Xでは『鶴は翔んでゆく』(ミハイル・カラトーゾフ監督、1957年、旧邦題は『戦争と貞操』)の長回しシーンがなぜか人気なようで、定期的にバズっているのを横目に見ている。
比較的最近の映画だと、『つぐない』(ジョー・ライト監督、2007年)のダンケルクの浜辺で展開される約5分間の、華麗かつ流麗でありながら、同時にそこはかとない悲壮感を漂わせる長回しが注目に値すると思っている。
映画『つぐない』の原作はイアン・マキューアンの小説。『贖罪』という邦題で新潮文庫から上下巻の日本語訳が出ている。ノーベル文学賞の候補者としてしばしば名前が挙がるけれど、村上春樹同様、受賞の見込みは薄そうである(あまりに売れていることと、イギリス出身であることが近年のトレンド的に不利に働きそう)。その枠では、カズオ・イシグロがすでにとってしまっているからなあ。
ダンケルクと言えば、クリストファー・ノーランが『ダンケルク』(2017年)を撮っているが、昨晩のレイトショーでようやく新作『オデュッセイア』を見ることができた。


