バービーの髪の毛はなぜキノコ雲になったのか(前編)|観測再録 #1

「バーベンハイマー」炎上を振り返り、女性と核兵器を結びつけるイメージの力を問い直す。
伊藤弘了 2026.08.04
読者限定

本日8月4日は、映画監督、俳優として知られるグレタ・ガーウィグ(1983年8月4日 - )の誕生日である。

3年前、彼女が監督した映画『バービー』(2023年)が、アメリカで同日(7月21日)に公開された『オッペンハイマー』のイメージと重ねられ、SNS上で「バーベンハイマー」というネットミームを生み出した(そして炎上した)ことを記憶している方も少なくないだろう。

映画『バービー』と映画『オッペンハイマー』の日本版ポスター

映画『バービー』と映画『オッペンハイマー』の日本版ポスター

今回お届けする論考は、「バーベンハイマー」炎上さなかの2023年8月に書いたものだ。寄稿した媒体の運営体制変更によって現在は読むことができなくなっているため、「観測再録」としてここに送り返す。

媒体の運営体制が変わってしまったため、現在その記事を読むことはできない。そこで、「再録」という形で、ここに再掲することにした。

勘違いしてほしくないので強調しておくが、たんに配信の埋め草として過去記事を流用しているわけではない。まさに今、このときに世界へと送り返すべき文章だと判断したからこそ再掲するのである。

読み返してみると、この文章はたんに一過性の炎上騒動を取り上げているわけではない。本文をお読みいただければ、読者にもその意味がわかると信じている。

「観測再録」は、過去の自分の仕事への現在からの応答である。それを現在の読者へと差し戻すことで、さらなる応答を請いたい。

初出は毎日新聞が運営する「ひとシネマ」という映画情報サイトである。僕はそこで「よくばり映画鑑賞術」という連載を担当しており、30本弱の映画評・映画時評を寄稿したが、2025年に運営体制の変更によってサイト自体が消滅し、現在、そのほとんどが読めなくなっている(「ひとシネマ」自体は毎日新聞本体のWebサイト「毎日新聞デジタル」に移設されており、現在も更新が続いている)。

文章全体に加筆修正を施しており、特に目立つ部分は【2026年追記】として独立させた。

***

バービーの髪の毛はなぜキノコ雲になったのか(前編)

(2023年8月20日初出)

「爆美女」という表現がある。「爆増」、「爆上がり」などの言葉と同様に「爆」を強調の意味で使っている。「爆弾のように」あるいは「爆発的な」といった意味を比喩的に参照することで、ある種の誇張表現に転用しているのである。英語にも「bombshell」という単語があり、爆弾を意味すると同時に、そこからの派生で「衝撃的なニュース」や「魅力的な女性」を表すこともできる。これらの例に限らず、女性の魅力を表すために爆発(物)が動員されることはしばしばある。

【2026年追記】8月4日にこの記事の加筆修正をしていて気づいたが、8月4日は奇しくも「ブロンド・ボムシェル(Blonde bombshell)」として知られるマリリン・モンロー(1926年6月1日 - 1962年8月4日)の命日である(遺体発見は翌5日未明)。

たとえば「ダイナマイト・ボディ」。もはや死語と化しているかもしれないが、ある種の女性の身体を表す比喩表現として知られている。言うまでもなく、ダイナマイトはニトログリセリンを利用した爆薬のことである。最初にニトログリセリンを安定させる方法を編み出し、ダイナマイトの実用化に成功したのは、ノーベル賞に名を残すアルフレッド・ノーベルである。

【2026年追記】初期の映画にはナイトレート・フィルムという可燃性フィルムが使用されていた。その基材であるニトロセルロースは、ニトログリセリンと同じ硝酸エステルの一種である。映画は長らく爆薬と近縁の物質の上に記録されていたのである。『ニュー・シネマ・パラダイス』(ジュゼッペ・トルナトーレ監督、1988年)や『イングロリアス・バスターズ』(クエンティン・タランティーノ監督、2009年)といった映画では、その可燃性の高さが効果的に物語に組み込まれている【図1】。

【図1】『イングロリアス・バスターズ』クエンティン・タランティーノ監督、2009年(DVD、Happinet、2012年)

【図1】『イングロリアス・バスターズ』クエンティン・タランティーノ監督、2009年(DVD、Happinet、2012年)

ダイナマイトの二重の転用

土木工事への利用を企図して発明されたダイナマイトだが、ほどなくしてそれが人を殺すための武器として戦争に投入されるようになった。爆薬の代名詞となったダイナマイトが持つ爆発的な破壊力のイメージにあやかって、日本では女性の身体を形容する言葉としてしばしばグラビア誌の誌面をにぎわせてきた。「悩殺」という言葉が文字通り体現しているように、魅力的な女性身体は(もちろん比喩的な意味合いにおいて)男性を殺しかねないほどの威力を持つ危険物に相当するというわけである。「BOMB」という名前を持つグラビア誌が(「BOMB!」時代も含めて)30年以上にわたって日本に存在し続けている事実は、こうした連想の一般性を裏づけてくれるだろう。

1988年生まれの筆者よりも年配の人であれば、SMAPの往年のヒット曲「ダイナマイト」(97年)の歌詞を想起するかもしれない(小学校のときの運動会のダンスでこの曲に合わせて踊った記憶がある)。くしくもBTSに「Dynamite」(2020年)という曲があるが、こちらは女性とは直接関係ない比喩としてダイナマイトの爆発のイメージを用いている(※「防弾少年団」というグループ名との相性の良さは、一考に値するかもしれない)。

「バーベンハイマー」、炎上す

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