バービーの髪の毛はなぜキノコ雲になったのか(後編)|観測再録 #2
2026年8月9日11時2分。
長崎への原爆投下から81年の日に、観測再録の後編を送り返す。
前編はこちら。なお、後編のみでも独立した記事として読めるように構成している。
「ビキニ」と「原爆カクテル」
原爆のイメージを女性と結びつけた代表的な例としては「ビキニ」を挙げることができる。一般にセパレート・タイプの女性用水着を指す言葉として普及しているが、もともとは地名である。1946年にアメリカの戦後初の原爆実験(クロスロード作戦)の場所に選ばれたのがマーシャル諸島のビキニ環礁だった。その実験の直後にフランスで発売された水着が「ビキニ」と命名されたのである。布地面積の小ささが与える衝撃の大きさを原爆のそれになぞらえたというわけだ。
ビキニ環礁ではその後、何度も核実験が繰り返される。なかでも1954年3月1日に実施された水爆実験(キャッスル作戦のブラボー実験)は悪名高い。このとき、日本のマグロ漁船・第五福竜丸が実験に巻き込まれて23名の乗組員が被曝したからである。この事件は同年11月3日に公開された『ゴジラ』(本多猪四郎監督)の着想元となっている。
【2026年追記】2023年11月3日には山崎貴監督の『ゴジラ-1.0』が公開され、大ヒットを記録した。2026年11月3日は同監督による新作『ゴジラ-0.0』の公開が予定されている。
「ビキニ」と同様の発想はスリム・ゲイラードが1945年に発表した楽曲“Atomic Cocktail”の歌詞にも表れている。アトミック・カクテル(原爆カクテル)は、同じ州内にネバダ核実験場を擁したラスベガスを中心として、50年代に人気を博したカクテルの名前である(ゲイラードの楽曲がカクテルの名前の由来になっているという説もある)。“Atomic Cocktail”では「カブトムシのように小さく、クジラのように大きい」というフレーズによって、少量のカクテルと、それがもたらす衝撃の大きさを対比させて表現している。
この楽曲はアメリカと核兵器をテーマにしたドキュメンタリー映画『アトミック・カフェ』(ケビン・ラファティ、ジェーン・ローダー、ピアース・ラファティ監督、1982年)の劇中でも、原爆カクテルに関連した映像に合わせて使用されている。「boom」という擬音語の歌詞のタイミングで、バー・カウンターの上に立つハイヒールを履いた女性のものとおぼしき脚のショットに切り替わる。軽く広げた脚のあいだからちょうど「ATOMIC Cocktail」のポスターが見える構図になっている【図1】。ここでも原爆と女性身体が比喩的に結びつけられているのである。

【図1】「アトミック・カフェ」ケビン・ラファティ、ジェーン・ローダー、ピアース・ラファティ監督、1982年(DVD 、竹書房、2004年)
終戦直後の長崎で開催された「ミス原爆美人コンテスト」
1950年代のラスベガスは核兵器を観光資源にしていた(「原爆カクテル」もその一環である)。核実験の見学ツアーが組まれ、「ミス原爆」コンテストなる美人コンテストまで開催された。ただし、原爆をモチーフにしたミスコンが行われていたのはアメリカに限った話ではない。終戦直後の長崎では、進駐軍も参加して「ミス長崎」のコンテストが開催されており、アメリカ側がそれを「ミス原爆美人コンテスト」と呼んでいたという証言が残っている。敗戦国の国民として甘受しなければならなかったグロテスクな現実を思うと眩暈がする。また、2000年代以降のロシアでも「ミス・アトム」コンテストが行われている。
ラスベガス出身の世界的ロックバンドであるザ・キラーズは、2012年にその名もズバリ“Miss Atomic Bomb”という楽曲をリリースしている。楽曲のジャケットは、1950年代のミス原爆コンテストに関連する写真を下敷きにしたものだ【図2】。また、ミュージック・ビデオのアニメーションのパートには、キノコ雲をかたどったヘルメットをかぶるダンサーたちが大量に登場するシーンがある【図3】。これらのイメージは「バーベンハイマー」のコラージュ画像を支える想像力と一直線につながっている。

【図2】ザ・キラーズの楽曲〝Miss Atomic Bomb〟のジャケット(2012年リリース)。Ultratop(French)「The Killers – Miss Atomic Bomb」(最終閲覧日2026年8月9日 )、https://www.ultratop.be/fr/song/103e1a/The-Killers-Miss-Atomic-Bomb

【図3】「The Killers - Miss Atomic Bomb」(TheKillersMusic)(最終閲覧日2026年8月9日 )、https://youtu.be/Qok9Ialei4c