この映画を見よ:原一男『ゆきゆきて、神軍』|観測記録 #2
あなたが次に見る映画を決めかねているというのであれば、ぜひ見てもらいたい作品がある。『ゆきゆきて、神軍』(原一男監督、1987年)がそれである。
これを読んでいる時点で2時間の映画を視聴する余裕のある方は、僕の御託に耳を傾けるまでもなく、すぐにでも作品を見始めていただくのがよいだろう。以降の文章は鑑賞後に読んでも問題ない。今すぐには見られないという方は、先に文章を読んで、今晩の楽しみに向けて気持ちを盛り上げていただければ幸いである。
映画『ゆきゆきて、神軍』は、現在、下記のリンク先(YouTube上)で無料視聴できる。ただし、良くも悪くも衝撃的な内容(暴力)を含む映画なので、その点はあらかじめ注意を促しておきたい。
まだ見ようかどうか迷っている方の参考のために、予告編も置いておく。映画を丸々見る時間はないが、2分弱の予告なら見られるというという方にも活用していただきたい。
傑作ドキュメンタリーの呼び声高い本作は、公開当時から話題を集め、その後も折に触れてリバイバル上映を繰り返してきた。映画ファンの間では知られた作品だと思うが、とはいえ、世間の誰もが知る有名作というわけではない。ちなみに、僕が初めて鑑賞した日付ははっきりしている。2012年10月16日(火)である(鑑賞記録をつけているとこういうときに役に立つ)。あまりのおもしろさに衝撃を受け、時をおかずに(正確には三日後の10月19日に)もう一度見ている。

当時の鑑賞記録。画面の中ほどに『ゆきゆきて、神軍』の文字が見える。ちなみに右端に小さく書かれている数字はその月の鑑賞本数。1日1本、月間30本をひとつの目安にして映画を見ていた。
そもそも、僕はどこでこの映画の存在を知ったか(僕が生まれる1988年の前年に公開された作品である)。2012年の10月は、当時大学4年(正確には5年)だった僕が、卒論(小津安二郎の『秋刀魚の味』論)のためのリサーチと並行して大学院進学のための準備を進めていた時期である。そのようなタイミングで、指導教員として考えていた京都大学の加藤幹郎先生が『キネマ旬報』の「日本映画オールタイムベストテン」企画に寄稿している文章をたまたま見つけたのであった。このときはじめて『ゆきゆきて、神軍』という映画を知り、同時に加藤先生の書きぶりから並々ならぬ傑作であることを知ったのである。

『キネマ旬報』「日本映画オールタイムベストテン」1995年11月13日号(No. 1176)、51頁。
これから師と仰ごうとしている先生が日本映画の歴代一位に挙げていて、しかも「このフィルムによって世界中の人間は映画の恐ろしさを思い知らなければならない」とまで書いているのだから、これはもう見ないわけにはいかない。すぐに在庫のあるTSUTAYAに走ってDVDをレンタルし(今ではもう失われて久しい文化だろう)、鑑賞を果たしたというわけである(ちなみに大学院の試験では8位に挙げられている溝口健二の『お遊さま』[1951年]について論述した。拙著『仕事と人生に効く教養としての映画』でも取り上げている映画であり、このときの分析が議論の骨組みをなしている)。
本作『ゆきゆきて、神軍』は、奥崎謙三という一筋縄ではいかない人物に密着したドキュメンタリー映画である。一癖二癖どころか十、二十癖くらいはあろうかという、文字通りの曲者である。その奥崎が、戦争末期に自身が所属していた部隊で起こった不可解な処刑事件の謎を追う。真相を明らかにするべく、部隊にいた人々から話を聞くために全国を飛び回るわけだが、尋常ならざる手練手管を用いて自らの「正義」を完遂しようと奔走する奥崎の一挙手一投足から目が離せない。その果てに、おぞましい真実が浮かび上がってくる仕掛けだが、詳細は読者自身の目で確かめてほしい。
奥崎という怪物的な人物を追ったこの怪物的な映画を見て「ドキュメンタリーとは一体何なのか」ということをつくづく考えさせられた。シンプルにめちゃくちゃおもしろい映画として受容していればよかった学生時代を経て、現在は曲がりなりにも映画研究者=批評家として身を立てており、この問いから目を背けるわけにはいかない。次回の記事では、引き続き『ゆきゆきて、神軍』を取り上げ、今の立場から考えていることを書きたいと思う。
もともと上記の内容とあわせて一本の記事にまとめるつもりでいたが、前回の反省を活かして潔く分割することにする(今回がここまででだいたい2,000字程度)。次回記事が配信されるまで(金曜の夜を予定している)に、ぜひ映画をご覧いただきたい。
銀行口座の審査が通ったので、とりあえずサポートメンバーの設定をしてみた(月額500円)。この件を告知する前から早速登録してくださっている方がいて、ビビり散らかしているところである。収益はありがたく研究費(主として書籍購入費用)に当てさせていただこうと思う。実際に購入したものはサポートメンバー限定のページで報告していきたい。
とはいえ、今さらオンラインサロンめいたビジネスに血道を上げるつもりはないので、無理に有料会員になっていただくには及ばない。たまにサポートメンバー限定のコーナーを作って、最近見た映画や、読んだ本の寸評、そのほか身辺雑記を載せる程度の予定である。有益な情報を得たい方向けというより、「こいつのやっている活動にも少しは意味がありそうだし、月に500円(年間6,000円)くらい投げてやってもいいか」と思える鷹揚な(奇特な)方の篤志を受け付けるための箱を作ったという感覚でいるので、そのつもりでお付き合いいただきたい。
以下は読者向けに(本当はサポートメンバー限定にしたかったのだが、そうすると読者に記事のメール配信ができなくなるようだったので諦めた。記事の途中にサポートメンバー限定の閲覧制限をかけようとすると、システム上、記事そのものの配信も自動的にサポートメンバー限定になってしまうようである)、加藤幹郎先生の「世界映画オールタイムベストテン」を載せておくことにする(上に載せているのは同時期に公開された日本映画編)。一流の映画研究者が選ぶ10本に興味のある方、『ゆきゆきて、神軍』の次に見る映画の参考にしたい方には少なからず役に立つだろう(結局、記事本文と同程度の2,000字ほどのコメントを書いてしまった)。くわえて、加藤先生との思い出も少しばかり紹介しておいた(こちらに関しては、また詳しく話す機会もあるだろう)。
まだ読者になっていない方は、この機会にぜひ登録を。
